※注意書き必読※
以下の方は閲覧をご遠慮ください。
・手放しにハッピーな話が読みたい方
・ディアマンドとアイビーに完璧な王、完璧な人間であってほしいと思う方
・子どもが生まれる展開が苦手な方
・死ネタが苦手な方
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昔々、神竜様が邪竜を打ち破った頃のこと。
邪竜と戦う神竜様の軍には、ブロディアという国の王子ディアマンドがいました。ブロディアはイルシオンという隣国に度々攻め行って戦争を起こし、たくさんの血が流れていました。
そのイルシオン国の王女アイビーが、ある時何の因果か神竜様の軍に加わることになりました。そしてディアマンド王子と出会い、やはり何の因果か恋に落ちました。
アイビー王女は、ディアマンド王子からもらった「勇敢」を意味する鉱石を使った首飾りを肌身離さずつけていました。この首飾りは、ブロディアとイルシオンの、またディアマンド王子とアイビー王女の友好の証だったのです。
そして二人は手を取り合って、ブロディアとイルシオンの民のために働くことを誓いました。
ディアマンド王子とアイビー王女は愛し合っていましたが、それぞれの国で王となるために、今は結婚をしないと決めました。結婚という形を取らないとはいえ、生涯を共に歩む気持ちに変わりはないのですが、元敵国の二人が結ばれるというと、両の国民が騒ぎ出すかもしれません。そのため二人の関係は伏せられていました。
しかし想いは募るもの、二人は神竜様のソラネルを度々訪れては、逢瀬を重ねてきたのです。
アイビーが王に即位して数年後、身ごもったことが知れると、イルシオン中が大騒ぎになりました。アイビー王は父親については口を割らなかったため、きっとどこの誰とも知らない男が父親なのだと、醜聞を広める者もいました。
アイビー王は逆境に負けず、とうとう元気な男の子が生まれました。髪の色はアイビー王女と同じ紫色で、瞳の色が赤色です。ここで父親は赤目の男だと、誰が父親かを探る者も出てきましたが、まさか隣国の王がそれだとは誰も想像しませんでした。
そしてアイビー王は、周囲からどんな仕打ちを受けようと、この子を守り抜くと誓ったのです。
アイビー王は、時にソラネルに我が子を連れていくことがありました。行った先には決まってディアマンド王がいました。彼は我が子と時々にしか会えないことを悲しみつつも、家族団欒の時間を持つようにしていたのです。
じきにアイビー王には第二子が生まれます。この時も民衆の感情はあまり良いものではありませんでした。今度の子も男の子で、瞳はアイビー王譲りの紫色ですが、髪の方が赤色でした。これで民衆は「父親は赤髪赤目の男だ」とあたりを付けたのですが、それが隣国の王だと気づく者はやはり誰もいませんでした。
時は過ぎ、二人の子ども達はすくすくと育っていきます。
それは兄が七歳、弟が四歳の頃だったでしょうか。ディアマンド王とアイビー王がイルシオン城で公的な会談をすることになり、会場に姿を現しました。ところが、城の自室で待っているはずだった第二王子が飛び出してしまいます。そして会談の場に現れると、ディアマンド王に駆け寄り「おとうさま!」と叫んだのです。
アイビー王を含めて困惑の空気が広がる中、ディアマンド王だけは全く動じず、駆け寄る子をしっかりと受け止めました。
そして「我が子の前で嘘を吐く訳にはいくまい。イルシオンの第一王子と第二王子は、私の子だ」と堂々と宣言したのです。
すぐさま両国は大混乱に陥りました。ブロディアの民は、ディアマンド様の子なのだからイルシオンから王子達を連れ帰るべきと主張し、イルシオンの民は、大切な王子達は渡せないと主張しました。話し合いは平行線を辿りましたが、最終的には第一王子がイルシオン、第二王子がブロディアに引き取られることになり、きょうだいは引き離されることになりました。
しかしこのことが契機で、ディアマンド王とアイビー王の仲は周囲から認められるに至り、時折二人の子ども達も含めて家族一緒に過ごすようになりました。家族でのブロディアとイルシオンの行き来も生まれ、普段は引き離されている家族も、つかの間の休息を取ることができました。
ディアマンド王とアイビー王が壮年を過ぎた頃、国交樹立に心身を砕いて、ブロディアとイルシオンの協働と発展が確実になったのを見て、二人は王位を退きました。後のブロディアとイルシオンを守るのは、二人のきょうだい王子です。二人は手を取り合って、かつてのディアマンド王とアイビー王のように、国のために尽力しました。
二人の王子が王として働き、跡取りを持ち、さらに両国に若き王が即位しようとしている頃。
王の位を退いて隠居し、とうとう本当に結ばれていたディアマンド元王とアイビー元王でしたが、ディアマンド元王がお亡くなりになりました。
アイビー元王は大層悲しみましたが、その震える肩を両の王が支えました。
「お母様。寂しくはありません、私達の中にお父様が生きていますから」
泣きじゃくるアイビー元王はその言葉に救いを感じ、伴侶を失ってもこれからの人生を生き抜くため、あの「勇敢」の意味を持つ首飾りをそっと握りしめたのでした。
恋仲になった日から死が二人を分かつまで、二人と息子達が幸福だったか不幸だったか、知るものは今は誰もいません。一つだけ言えるのは、このお話のディアマンド王とアイビー王は、真に愛し合っていたと言うことでしょう。
〈了〉